◆第三章「地方人としての暮らし」~大きな「マダム」◆
我々を乗せたトラックは、二、三〇キロくらい走ると、やがてカンスクの街へ入った。
運転手はさすがに心得たもので、車を「ミリツ」<警察署>の前に止め、右手で到着した事を知らせたのである。ミリツの中には若手の警察官が一人いた。「今、署長は食事で外出しているから少し待て」と班長に言った。二〇分ほどして署長が入って来た。五名いる我々を見ていささか戸惑いながらも愛想よく会釈した。大きな身体を椅子に下ろして、若い警察官の説明を聞いていた。そしてどこかへ電話を掛けた。その相手は木材の流送をしている所であった。署長は班長を通して、そこへ行く希望者を聞いた。結局、そこへは班長とN氏の二名が行く事に決まったのである。
もう一ヵ所は建設会社であった。そこへは私と後の二名が就職した。そこで初めて班長などに別れを告げ、私達を受け入れる寮へと警察署を後にしたのであった。
寮は町の東北にあたる町外れにある。そこは昔ラーゲルの看守達の宿舎であったとか、その近くをエニセイ川が流れていた。建物は丸太造りで白壁の二階建であった。最初玄関で感じた印象は、古くなってはいたがそれはどいやな気はしなかった。
やがて中から大柄で色白な、可愛い顔をしたマダムが二歳位の赤ん坊を抱えて微笑みを浮かべて出て来た。その時我々三名の日本人は真っ黒く日焼けした顔を一斉に彼女に向けた。マダムは先頭に構えていた私の足元を見るなり、「オオ!!カラシーワヤ、サポキ」<可愛らしい長靴を>と目を細くして、頓狂な奇声を上げて笑った。彼らの靴はどれもみな大きくて私の足には合うのが無く、いつも女性用の長靴を履いていたのであった。我ながら情け無いやら、おかしいやら、彼女と一緒に笑い出してしまった。
マダムは我々を階下の大部屋に通した。そこはペチカと真っ白いシーツの敷かれた寝台が三台並んでいた。我々が警察署から四キロ余りの道を歩いて来るまでに準備をしてくれたのであった。
やがて夕方になったが部屋の中はまだ点灯がなく薄暗かった。それぞれ自分の寝台に腰を下ろし、退屈しのぎに先程のマダムの話となり、彼女の亭主はどんな大男だろうか?、と勝手な事を言いながら大笑いしたのであった。

ロシア人マダムはみな貫禄ありますね。何を食べているのか・・・。パンとジャガイモであそこまで貫禄がつくのか不思議に思っていました。

みーさん♪ そんなにロシア女性は貫禄あるのですか?みんな?笑 骨太なんですかね。。??