◆第二章「ラーゲル生活あれこれ」~トランプ作り◆
ロスケは寒さに強いばかりか、すぐれたアイディアを生み出す国民である。まことに感心するばかりであった。無論、経済的な面からくることもあろうが、その“不自由さを楽しみながらカバーする”しぐさが逞ましくもありこっけいでもあった。
先づ豊原刑務所での若い水兵による「赤いチョッキ」、便器の蓋で造った「火縄」、その都度私は感歎したものである。
これはコムソモリスクにいた時のことである。ロスケが新聞紙を広げ、黒パンを「メシキ」〈食器〉の中で練って、それを布切れで漉したり、絞ったりして糊を作り、三~四枚の新聞紙を張り合わせた。それが乾燥するのを待って、次は編上靴の踵にかくし持っていた安全カミソリの刃を、やおら持ち出して幅五センチ、長さ八センチほどに切った。私は何をするのかとジッと見ていた。すると彼はそのカードを二センチほどに重ねて、満足そうにテンを切る仕種をした。私は“ああ、トランプだ”と直感した。
次に彼はベッドのしたからガラスの破片と、タイヤの切れ端を出して油煙をつくったのである。その油煙に配給された少量の砂糖を混ぜて黒い色を造った。それをあらかじめ切り抜いておいた、クローバーとスペードの型紙でカードに刷り始めたのだ。私は思わず「ハラショー」〈すばらしい〉と賞賛した。
次は煉瓦のかけらを石で砕き、砂糖を入れて練り合わせる。赤の代用色を造ったのは言うまでもないことだった。
私はつくづくロスケ達の名アイディア『ラーゲル学園』での美事な工作品の数々に教えられたのである。
そこまでは私も大変感心したのだが、その遊び方たるや、ラーゲル独特なもので、着ている衣類は勿論、果ては寝具まで賭けて、裸一貫になるまでの勝負をするのであった。結局、負けた者は翌日仕事にも出られず、「カルツエル」〈留置所〉のお世話になるのである。

ハラショーと言えたおじさまの心がオーチンハラショー(とっても良い、素晴らしい)ですね。賭け事をするとロシア人は深みにはまるようです・・・。

そうですよね。。とっても辛い生活をしているとは思えない。。
「ラーゲル学園」と表現する伯父が面白い♪